Twitterを見ていたところ聖地巡礼による経済効果というのがおすすめに出てきたのでそもそもこれは何のデータなのか、いつのデータなのかというところから一旦まとめてみたいと思います。
引用した投稿では「アニメのインバウンド聖地巡礼者を全訪日外国人の一割と推計してる。」としていますが、実際には訪日客へのアンケート調査にて次回したいことを訪ねた際に「映画・アニメ縁の地を訪問」を選んだ人の割合が11%であった1ことから、その割合を実際の訪日来訪者に掛けた人数を潜在的な聖地巡礼者と計算しています。
データの出どころ
引用画像の出どころ
画像で直接引用しているデータは、リンクに示されています。これは、2024年4月17日(水)に開催された「新しい資本主義実現会議(第26回)」において、基礎資料として内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局が作成したものです。
第26回では、是枝裕和監督や山崎貴監督を呼んで官民連携によるコンテンツ産業活性化戦略について議論されたようです2。
実際に資料をご覧いただければ分かるのですが、この資料自体は2023年10月25日の新しい資本主義実現会議(第23回)で示されたものを再編集したものです。
第23回は何をやったかというと
(1)供給サイドの強化の在り方(省人化投資、高齢者就労の活性化、リ・スキリングを含む)
(2)コンテンツ産業の活性化(アニメ・ゲーム・漫画・映画・音楽・放送番組等)
ということです。
引用画像内の数字の出どころ
引用画像内に出所が示されていますが、なんか二重に示されていて気持ち悪いですね。データが全て2016年のものであることを考えると、観光庁「訪日外国人 消費動向調査 平成28年(2016年)年間値(確報)」および日本政府観光局「訪日外客数」を引用した株式会社日本政策投資銀行「コンテンツと地域活性化 ~日本アニメ100年、聖地巡礼を中心に~」(2017年5月)を引用したのだと思ったのですが、「コンテンツと地域活性化」の中にはそのような表はありませんでした(出所にDBJ作成と書いてるのでDBJの資料から取ってきてるはずですが……)
そこでひとまず観光庁「訪日外国人 消費動向調査 平成28年(2016年)年間値(確報)」を探します。
ありました。参考表2 国籍・地域(21区分)別 訪日旅行に関する意識 (満足度など)を見ると、引用画像通りの数値が出ています。
調査項目 | 選択肢 | 回答数 | 回答率 |
---|---|---|---|
今回したこと (複数回答) | 映画・アニメ縁の地を訪問 | 1,503 | 4.8 |
今回した人の うち満足した 人の割合 (複数回答) | 映画・アニメ縁の地を訪問 | 1,326 | 90.0 |
次回したいこと (複数回答) | 映画・アニメ縁の地を訪問 | 3,500 | 11.0 |
最新版の表を作成する
最新データの収集
データの出どころが分かったので、最新版を作ってみます。2016年と2023年とではずいぶん話が変わってきますからね。
まずは訪日外客数ですが、2023年の確定値が出ていないので暫定値です。出典:日本政府観光局(JNTO)
2016年 1月~12月 (確定値) | 2023年 1月~12月 (暫定値) | 増減 | |
---|---|---|---|
訪日外客数 総数 | 24,039,700 | 25,066,350 | +1,026,650 (+4.2%) |
続いて訪日外国人消費動向調査 2023年(令和5年)年間値(確報)
調査項目 | 選択肢 | 2016年 | 2023年 | 増減 |
---|---|---|---|---|
今回したこと (複数回答) | 映画・アニメ縁の地を訪問 | 4.8% | 7.5% | +2.7 |
次回したいこと (複数回答) | 映画・アニメ縁の地を訪問 | 11.0% | 10.9% | -0.1 |
最新版の表を作成
データが集まりましたので、最新版の表を作成します。
項目 | 2016年 | 2023年 | 増減 |
---|---|---|---|
A: 訪日来訪者数(千人) | 24,039 | 25,066 | +1,027 |
B: 今回したこと(選択率: %・複数回答) 「映画・アニメ縁の地を訪問」 | 4.8 | 7.5 | +2.7 |
C: 聖地巡礼者数(試算: 千人) 「C=A×B」 | 1,148 | 1,875 | +728 |
D: 買い物代(購入率: %) 「マンガ・アニメ・キャラクター関連商品」 | 13.6 | ||
E: アニメ関連グッズ購入者(試算: 千人) 「E=A×D」 | 3,272 | ||
F: 買い物代(購入者単価: 千円/人) 「マンガ・アニメ・キャラクター関連商品」 | 10.9 | ||
G: アニメ関連グッズ購入額(試算: 億円) 「G=E×F」 | 356.4 | ||
H: 「映画・アニメ縁の地を訪問」した人のうち 満足した人の割合(%・複数回答) | 90.0 | 94.7 | +4.7 |
I: 次回したいこと(選択率: %・複数回答) 「映画・アニメ縁の地を訪問」 | 11.0 | 10.9 | -0.1 |
J: 聖地巡礼者 滞在数(試算: 千人) 「J=A×I」 | 2,637 | 2,720 | +83 |
K: 旅行支出額(千円/人) | 155.9 | 212.8 | +56.9 |
L: 聖地巡礼者の国内消費支出期待値(試算: 億円) 「L=J×K」 | 4,112 | 5,788 | +1,676 |
支出項目の品目の分け方が変更になっており、2023年のアニメ関連グッズ購入額を算出できませんでした。聖地巡礼者の国内消費出期待値は同じ計算方法で算出でき、以上のような結果となりました。
実際に「聖地巡礼」を行った外国人来訪者の割合は2016年に比べて2.7%増加し、数としては70万人あまり増加しています。
一方で、次回聖地巡礼をしたいと答えた割合はほぼ横ばいで、このまま推移すれば10%前後で頭打ちになるように見えます。最近、聖地巡礼による地域おこしのような活動が行われてきていますが、現状の取り組みのままで楽観視していくことはできないように思います。
2016年に比べると外国人来訪者1人1回あたりの支出額は3分の1以上増加しており、それに伴って聖地巡礼者の国内消費支出期待値も40%程増加しています。これは「聖地巡礼」の経済効果の大きさを示すものではありますが、円安などのコンテンツ以外の要因が大きく影響するため、増加していることを単純には評価できないように思います。
まとめ
2023年の統計情報をもとに、新しい資本主義実現会議(第26回)基礎資料の聖地巡礼部分について書けば、
日本各地にアニメの聖地巡礼地が存在。インバウンド観光客のうち聖地巡礼者数は188万人。潜在的な聖地巡礼者の需要は270万人と見込まれ、5,700億円の国内消費支出が期待されている。
となるでしょうか。